約20年前、私たちの歩みは介護からはじまりました。
それは、ただのお世話ではなく、一人ひとりの「普通の暮らし」と「幸せ」を支えるための挑戦でした。
その想いはお年寄りにとどまらず、子どもや地域、孤独や孤立といった社会の問題に向き合うケアへと広がっています。
このVision bookでは、「介護」と「ケア」という言葉を少し分けて使っています。
はっきり線を引くことはできませんが、イメージを共有できるように、私たちはこんなふうに考えています。
「介護」は、食事や入浴、排泄など、生活の基本を支え、暮らしやすくするための支援。
「ケア」は、相手の思いや尊厳を大切にし、安心やつながりを育む、人と人との関わり。
理事長・小野里勝一は、10歳のときに父を亡くしました。
そして25歳のとき、母が農作業中に倒れ、そのまま帰らぬ人となります。
両親を早くに亡くし、茨城県八千代町で農家を営み、その後工務店を設立しましたが、親孝行できなかった深い悔いが胸に残り続けました。
やがてその想いは「地域のお年寄りに恩返しをしたい」という願いへと変わり、2004年に社会福祉法人紬会を設立し、翌2005年、母が倒れた畑に特別養護老人ホーム玉樹を開設しました。
特別養護老人ホーム玉樹の原点には、開設時に行った生活介護研究所による「ZIZIBABA体験研修」があります。寝たきりや座りきり体験では、視覚や聴覚を制限されたうえに手足を拘束された状態で、長い時間をベッドや車椅子で過ごします。見えない不安や話し声が遠く聞こえる孤独、体のしびれや温度調整できない辛さを体感します。オムツや食事の過酷な体験も重ね、仲間と徹底的に語り合うことで、「その人の立場に立って考え続ける介護」が形づくられました。
「ちゃんと介護する」とは、誰にでもできるお世話ではなく、知識と技術をもった専門職による介護です。認知症の方には気持ちに寄り添い、落ち着ける環境を整えます。移動や移乗も技術を活かして、残された力を最大限に引き出します。生活の中でのリハビリや自立支援を通じて、食事をおいしく食べ、湯船につかってリラックスし、トイレですっきり排泄する――そうした日々を、最期のときまで、なるべく長く支えます。
ユニットケアは、従来の流れ作業的な介護に疑問を感じた現場の実践から生まれました。「介護が必要になっても、ごく普通の生活を営むこと」を目指し、少人数でなじみの関係を大切にする考え方です。小さなグループだからこそ、一人ひとりを深く知り、その人の生活や人生、思いを尊重した介護とケアを実現していきます。
「どうせできない」と願いを口にしない方もいます。私たちも無意識に「無理だろう」と思い込むことがあります。だからこそ、日々の会話や関わりを重ね、心を動かし、その奥にある願いを引き出してきました。言葉で伝えられない方には、ご家族から話を伺ったり、これまでの人生の歩みから想像することもあります。そうして見つけた「昔よく行ったお店のうどんが食べたい」「孫の結婚式に出たい」「思い出のあの場所へもう一度行きたい」といった願いを実現することで、笑顔や生きる力が生まれます。
私たちは、長年、お年寄りの介護とケアを通して地域と向き合ってきました。これからはその経験をいかし、孤独や孤立、子どもの貧困、災害時に支援が必要な人たちなど、地域にある「暮らしの危機や困りごと」にもケアを広げていきます。地域のみなさんと力を合わせながら社会の困りごとに向き合い、解決を目指して挑戦を続けます。
INDIGO.は、玉樹から歩いて1分の場所に、「お年寄りと社会をつなぐ」ために始まりました。今では子どもからお年寄りまで、誰もが気軽に安心して集える地域の居場所になっています。ふらっと立ち寄ってコーヒーを飲んだり、地域食堂で一緒にご飯を食べたり、ワークショップなどを通して自然なつながりが生まれます。世代をこえて支え合い、安心して暮らせる地域を、みんなで協力しながら育んでいきます。
誰もが、できることなら住み慣れた家やまちで暮らし続けたいと願っています。でも、その暮らしを守るには、介護サービスだけでなく、近くにいる人たちの支え合いが欠かせません。私たちは、これまでに積み重ねてきた介護とケアの経験をいかし、家族や地域の人たちとも力を合わせて、その人らしい暮らしを、できるだけ長く続けられるよう支えていきます。