子どもの貧困

日本の子どもの9人に1人が貧困

日本における子どもの相対的貧困率※は11.5%であり、およそ9人に1人の子どもが貧困状態にあるとされています。35人学級であれば、1クラスに約4人の子どもが貧困を抱えている計算になります。豊かな国とされる日本で、これほど多くの子どもが貧困に直面している現実は、非常に深刻です。
生活困窮世帯等の子どもたちは、日々の生活において基本的な必要を満たせないことが少なくありません。たとえば、十分な食事を取ることができない、学用品や生活必需品を揃えられない、塾や習い事などの教育機会に恵まれない、さらには親が昼夜問わず働きに出ているために、子どもが夜ひとりで過ごすことを余儀なくされるなど、生活全般にわたり「育つために当たり前にあるべき環境」が不足しているのが現状です。加えて、こうした貧困は、子どもたちの将来の選択肢を狭める要因にもなります。経済的な理由から高校や大学の進学を諦めざるを得なかったり、夢や希望を持つこと自体が難しくなったりするケースも少なくありません。
このような困難に直面している子どもたちは、必要なものが当たり前に揃っている友達の姿を横目に、自分は大人や社会から愛されていない、必要とされていない存在なのではないかと感じ、自己肯定感を下げながら日々を過ごしていることも珍しくありません。
※相対的貧困とは、所得が貧困線(全人口の家計所得中央値の半分)を下回っている割合。

子供の貧困の現実

  • 普段は給食を頼りにした食生活になっており、夏休み中は昼食が用意できず、1か月で5kg痩せてしまった。
  • 鞄や着替え、お小遣いなどが用意できず、修学旅行に参加することを諦めた。
  • 25cmの足に3cm小さい上履きを、踵を踏んで履き続けている。授業では「コンパス・分度器セット」「習字道具」「水着」「リコーダー」等を購入できず、参加できない
  • 家計における生理用品の優先順位が低く、購入することができないため、ティッシュで代用している。
  • 健康保険が切れていて全額負担になるため、高熱が出ても病院に連れて行ってもらうことができない。
  • 生活困窮世帯で塾にも行けなかったが、独学で必死に勉強し、優秀な成績で希望大学に受かったものの入学金が払えず、進学を諦めて就職した。

ひとり親世帯は世界一働いているのに貧困

一人親世帯の貧困率日本のひとり親世帯の相対的貧困率は50.8%と、約2世帯に1世帯が生活に困難を抱えているのが現状です。他の先進国と比較しても、日本のひとり親世帯の貧困率は非常に高い水準にありますが、これは決して「ひとり親世帯が怠けているから」ではありません。
OECDのデータによると、日本のひとり親世帯の就労率は先進国で最も高く、最も「働いている」国とされています。それにもかかわらず、相対的貧困率はワースト1位となっています。一方、就労率2位のデンマークでは、ひとり親世帯の相対的貧困率は最も低く抑えられています。この比較からも明らかなように、日本では「働いても生活が苦しい」ワーキングプア状態のひとり親世帯が多く存在しており、努力しても貧困から抜け出せない現実があります。この状況は「自助努力の不足」「自己責任」ではなく、社会構造に起因する問題として捉えるべきと考えられます。一人親世帯グラフ

働いても貧困。社会保障給付を受けてもなお貧困の日本

子ども貧困率国民の経済的格差を是正する仕組みとして「所得の再分配」があります。これは、総収入から税金や社会保険料などを差し引いた後、手当等の社会保障給付を行うことで、特に低所得世帯が貧困に陥らないよう支援する仕組みです。OECD加盟国における、再配分前(当初所得)と再配分後の子どもの貧困率を比較したデータを見ると、ほとんどの国では再配分後に貧困率が大きく下がっています。しかし、日本では唯一、所得の再分配後に子どもの貧困率がかえって上昇しているという異常な状態が見られます。日本と同程度の子どもの貧困率であるスウェーデンやデンマークでは、所得の再分配によって子どもの貧困率は大幅に低下しています。また、当初所得の段階で最も貧困率が高いチェコでさえ、再分配後の子どもの貧困率は日本よりも低い水準にあります。多くの国では、税負担の軽減や充実した社会保障制度を通じて、所得の再分配が実質的に機能しています。しかし、日本はOECD加盟国の中で唯一、再配分によって子どもの貧困が悪化しているという極めて深刻な問題を抱えています。その背景には、日本の所得の再配分の仕組みが高齢世帯を中心に設計されており、若者や子どもへの支援が極めて手薄であるという構造的な問題があります。日本の子どもの貧困問題を解決するためには、社会保険料の負担のあり方や税制、そして社会保障制度の見直しが必要とされています。

母子世帯の約7割は離婚後の養育費を受け取れていない

一人親世帯の教育費受給について離婚後、ひとりで子どもを育てることになった場合、同居していない親は養育費を支払う義務があります。しかし実際には、養育費を受け取っているひとり親世帯は非常に少なく母子世帯で28.1%、父子世帯では8.7%に留まっています。養育費を受け取れない背景には、支払いが決まっていたにもかかわらず途中で途絶えるケースや、支払いの拒否、非同居親の低収入、D V(ドメスティックバイオレンス)によって交渉が困難であるといった要因が挙げられます。
また、そもそも離婚時に養育費について十分に話し合いができていないケースも多く、最初から養育費の受け取りを諦めているひとり親世帯も少なくありません。このように、日本では制度上の義務があっても実態として機能しておらず、多くのひとり親家庭が経済的に厳しい状況に置かれているのが現状です。

世帯収入によって子どもの将来が決まる現実

世帯年収と偏差値世帯収入が低い世帯の子どもは、学力においても不利な傾向が見られます。
例えば、下記のグラフ「世帯年収 × 偏差値」によると、世帯年収が低い家庭の子どもの学力(国語・算数)は、中学生・小学生ともに、世帯年収が高い家庭の子どもに比べて低くなる傾向があります。
このことから、家庭の経済状況が子どもの学力に大きく影響していることがわかります。

両親年収別の高校卒業後進路さらに、高校卒業後の進路についても、世帯年収によって進学率に大きな差が見られます。
例えば、「両親年収別の高校卒業後の進路」のグラフでは、年収200万円未満の家庭では大学進学率が28.2%に留まるのに対し、年収1200万円以上の家庭では62.8%と、2倍以上の差があります。
また、年収が低い家庭ほど、大学進学ではなく就職を選ぶ子どもの割合が高い傾向も明らかになっています。

学歴×年収加えて、学歴と収入にも明確な相関があります。
「学歴 × 年収」のグラフによれば、最終学歴が中卒の人の平均年収は約380万円であるのに対し、大学・大学院卒の人の平均年収は約608万円となっており、大きな開きがあります。
このように、世帯収入が低い世帯の子どもは、学力で不利になりやすく、進学の機会も限られ、将来的な収入も低くなるという、いわゆる「貧困の連鎖」が起こりやすい現実が浮き彫りになっています。

生活困窮世帯の子どもたちに「不足」しているもの

生活困窮世帯の子どもたちは、「食事」「教育・進学の自由」「生活必需品」「医療」「生活習慣と社会性」「体験」「非認知能力」「自由な時間」「世帯の子どもを支える力」など、日常生活のさまざまな面で不足や制約を抱えています。
これらの不足は、単に「不足」していること自体が問題であるだけでなく、子どもの身体や脳、心の健全な発達に深刻な影響を及ぼし、学力の差にもつながっています。
さらに、こうした状況は教育の機会格差を生み出し、将来的な就職や収入にも悪影響を及ぼす可能性があります。
実際に、生活保護世帯で育った子どもの4人に1人、母子世帯で生活保護を受けていた家庭の子どもの2人に1人が、成人後も生活保護を受けているというデータもあり、これは「貧困の連鎖」と呼ばれる深刻な社会問題につながっています。

生活困窮世帯の子どもに足りていない9つの不足

  • 満足な食事の不足
    1日3食の食事が取れず、栄養不足や偏った食事によって身体や脳の成長にも影響。夏休み等の長期休暇には給食がなくなり、痩せてしまう子どもたちがいる。
  • 教育・進学の自由の不足
    年収が低い世帯ほど子どもの学力が低く、高校進学率、大学進学率も低い。進学について親から理解を得ることが難しいことも多い。
  • 生活必需品の不足
    「目が悪くてもメガネを変えない。」「冬に暖かい服や布団がない。」「自転車を買えない。」「生理用品を用意できない。」など、誰もが当たり前に持っている生活必需品を揃えられない。
  • 医療の不足
    健康保険の支払いが出来ず、健康保険証が切れている世帯の子どもは、子どもの医療費が無料の地域においても10割負担となるため、受診が困難。
  • 基本的な生活習慣や社会性の不足
    毎日お風呂に入る、歯を磨く、洗濯をするということができていない。部活や友人との遊びなど、自由な参加が困難。
  • 誰もがしている体験の不足
    クリスマスにお祝いがなく、サンタも来ない。誕生日にも誰も祝ってもらえず、欲しいものを買ってもらった経験がない。経済的な問題で修学旅行にも参加できない。
  • 非認知能力の不足
    生活困窮世帯等では、自制心、忍耐力、回復力、意欲・向上心、自信・自尊感情、楽観性、コミュニケーション力、共感性、社交性・協調性等、生き抜くために必要な力(非認知能力)が小学校低学年時点から低い傾向がある。
  • 介護等で家族を支えるための子どもの自由の不足(ヤングケアラー)
    要支援・要介護の家族の介護や介助をしたり、病気や障がいのある親、兄弟姉妹の世話などを担い、学業、子どもらしい生活、就職等に影響が出る。
  • 世帯の生活力と子どもを支える力の不足
    経済的に厳しく、電気、ガス、水道が止まって、子どもにも負担がかかる。機能不全家庭等では、子どもの進学に必要な手続きを親が行うことができない、子どもの生活、友人関係、進学など問題が起こっても、相談を受けることが難しい。

「クラスとの友だちとの格差を感じ、自己肯定感が下がる日々」

小学校6年生の悠真くんは、うつ病を抱えるお母さんと、小学1年生の弟の3人で暮らしています。両親は、悠真くんが低学年の頃に離婚。家計を支えるため、お母さんは昼も夜も働き詰めで、家にいる時間はほとんどありません。その分、家のことは悠真くんが担っています。

朝は一人で起き、弟を起こして学校の準備。朝ごはんは食べないまま登校します。視力が悪く、黒板の文字もほとんど見えませんが、「お母さんの負担になりたくない」と、眼鏡が必要なことを伝えられずにいます。冬の寒い日も、「半袖が好きだから」と薄着のまま登校。こまめに洗濯する余裕がなく、汚れた体操服で授業に出た日は、友だちから「臭い」と言われ、深く傷つきました。物差しは目盛りが消え、コンパスや分度器も揃えられず、上履きは小さくなったものをかかとを潰して履き続けています。水泳の授業は、水着がないため、毎回見学です。

放課後は家に帰り、食事を買いに行ってご飯を用意し、弟の世話をして過ごします。友だちと遊びたい気持ちはあっても、時間も心の余裕もありません。夜は薄い布団にくるまり、弟と体を寄せ合って眠ります。ある日、悠真くんは高熱を出しました。地元では子どもの医療費が無料ですが、母親の健康保険証が失効しており、病院にかかると全額自己負担。結局、受診を諦めるしかありませんでした。楽しみにしていた修学旅行も、カバンや着替え、お小遣いを用意できずに不参加。クリスマスには、多くの家庭にサンタクロースが来ますが、悠真くんのもとにプレゼントが届いたことは一度もありません。

学校では、いつも清潔な服を着て、必要なものがそろった友だちの姿を見て、「みんなキラキラしてる」と話す悠真くん。自分との違いに、少しずつ自己肯定感を失い、「自分なんてどうでもいい」と感じるようになっていきました。

そんなある日、学校の先生の紹介で、「子ども第三の居場所」に通うことになりました。そこでは、温かいご飯を食べることができ、弟の面倒も見てもらえます。宿題にも集中できるようになり、同年代の子どもたちと遊ぶ時間もできました。

第三の居場所のスタッフに生活必需品や学用品が足りないことを相談すると、必要なものを揃えてもらえました。初めて迎えたクリスマスには、ケーキを食べてお祝いをし、人生で初めてプレゼントをもらうことができました。その時、悠真くんはとても嬉しそうな表情をしていました。

こうして、「子どもとして当たり前の生活」を少しずつ取り戻していく中で、自分を大切に思ってくれる大人と出会い、困った時には相談できるという安心感を知った悠真くん。やがて、自分自身のこと、そして将来のことを「大切にしてもいい」と思えるようになっていきました。

「子どもの貧困問題における紬会の取り組み」

インパクトゴール
『どのような環境に生まれ育っても、すべての子どもが、十分な食事や教育、生活必需品、愛情など
「育つために当たり前にあるべき環境」を得られる社会の実現』

食事、教育、愛情、生活必需品、社会的体験など、一般の子ども等には当たり前にある環境が得られない子どもたちがいる現状を踏まえ、紬会では「どのような環境に生まれ育っても、すべての子どもが、十分な食事や教育、生活必需品、愛情など
『育つために当たり前にあるべき環境』を得られる社会の実現」という目標を掲げて活動しています。
そして、最も大きな問題と考えられる「食事」「教育」「生活環境」「医療」「体験」「非認知能力」「家庭環境」の7つの格差問題に焦点を当て、社会問題に対する対処療法に留まらず、根本治療や予防となる活動も行い、貧困の連鎖を断ち切り、社会的インパクト(成果)に繋げる活動を行います。

解決のための活動

子どもの貧困問題における紬会の取り組み一覧