
「お母さん、頑張ったね……。お疲れ様。ありがとう」
最期のとき、夫のかずおさんはそう声をかけていました。
妻のみつこさんが玉樹に入居されたのは、長くご自宅で過ごされたあとでした。
十三年間、在宅で介護を続けてきました。
「自分の生きがいだったんです。
でも、これからは一人で過ごす練習をしないといけないですよね。」
そう話されていたことが、印象に残っています。
入居してからしばらくすると、
食事がとれなくなり、点滴が始まりました。
回復が難しい中で、この先どうするか、
一緒に迷う日々が続きました。
点滴を続けるのか、やめるのか。
「点滴を自分が終わりにしたというよりは、
もう入らなくなってしまった、ということにしてください・・・。
そういう風に思わせてください。」
かずおさんは、そう話されました。
何度も何度も、同じ言葉を繰り返しながら。
点滴をやめることになってからは、
毎日お部屋に来て、
二人きりの時間を過ごしていました。
音楽をかけながら、
みつこさんは静かに眠り、かずおさんはその傍らで本を読んでいました。
そして数日後、
ご家族に見守られながら、
静かに息を引き取りました。
最期の呼吸をする瞬間、
そっと声をかけました。
「お母さん、頑張ったね……お疲れ様。ありがとう」